1999年に徳島大学工学部で研究キャリアを開始し、岡山大学、東京農工大学を経て、2011年に慶應義塾大学 理工学部へ着任。2018年に教授に昇任し、現在は理工学部 システムデザイン工学科 教授、ならびに医学部 精神神経科学教室の兼担教授として研究を続けている。
専門は生体信号処理と感性工学。脳波と脈波という外乱に極めて敏感な信号を、計測の現場で高い精度で扱うことを目的に、リアルタイム・ノイズ除去アルゴリズム(初期特許 1997年)の研究を続けてきた。この基盤の上に、感情、睡眠ステージ、血圧、循環ホルモン動態、認知症初期兆候(MCI)の推定など、複数の応用研究を並行して進めている。
研究成果は Nature をはじめとする学術誌に掲載され、感性推定の発明は World Top-50 Inventions に選出された。これらの研究を社会に届けるための事業体として、2024年に IKI ジャパン株式会社を設立した。
なぜ、IKIを立ち上げたのか
身体は、絶えず信号を発している。脳波、脈波、表情の微細な変化、声のゆらぎ、ホルモンの動態。しかしそれらの信号は極めて微弱で、日常のノイズに容易にかき消されてしまう。
私は研究者として、20年以上にわたり、この微弱な信号を計測の現場で精度高く取り出す方法を探求してきました。生体信号を扱ううえで最大の壁は、常に「ノイズ」です。センサーの装着位置、室内照明、皮膚の状態、呼吸、感情のゆらぎ ── そのすべてが信号に混入します。1997年に最初の特許として結実したリアルタイム・ノイズ除去アルゴリズムは、その壁を越えるための最初の足がかりでした。この基盤の上に、感性、睡眠、循環、ホルモン、発話、認知症の早期兆候など、人の状態を読み取る技術を一つずつ積み上げてきました。
研究成果は論文という形で世に出てきました。一方で、ヘルスケアの現場、産業の現場、生活の現場での実装は、必ずしも十分には進んでいません。論文と実装のあいだには、深い隔たりがあります。
IKIは、その隔たりを越えるために設立した会社です。研究と社会のあいだに、確かな橋をかけたい。データの取り扱いの作法、被験者への誠実さ、医療領域での慎重さを保ったうえで、人々が日々の生活のなかで自身の身体の状態をもう少し把握できるようにする ── そのための研究、製品、エコシステムを、東京と海外法人の二拠点から構築していきます。
人は、測れるものしか目指せない。だからこそ、これまで測れなかった幸福や感性まで測れるようにすることが、世界の豊かさのとらえ方そのものを変えていくと、私は信じています。身体のなかには、まだ読み解かれていない信号がある。私たちは、それを誰もが手にできるかたちに変えていきます。